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宙吹き(ちゅうぶき)

熱した吹き棹でドロドロのガラス種を巻き取ります。

溶解炉は24時間稼働中
るつぼの中は1400℃のドロドロガラスです。

ガラスの材料は珪砂(けいしゃ)という珪酸分(SiO2)を主成分とする、石英の砂です。珪砂は溶解炉の中の“るつぼ”で1400℃まで熱せられ、ドロドロの状態になります。これがガラス種です。ガラス種は冷えると固まってしまうので、溶解炉は24時間休みなしです。

ガラス種をよく熱した金属製の吹き棹に巻き取り、冷めないように熱を加えながら、吹き棹のもう一方の先から息を吹き込みます。型を用いず、宙空で吹いて成形するので、この技法を宙吹き(ちゅうぶき)と呼んでいます。

宙吹きは、形や装飾が自由自在で、作家さんや職人さんのオリジナリティーを最大限引き出せる技法とされています。

数回に分けてガラス種を重ね、リンで形を整えます。

ガラス製作は時間との闘い
一瞬も気を抜けない緊迫感が漂います。

吹き棹に最初に巻き付けたガラス種のかたまりを下玉(しただま)といい、この下玉に2~3回ガラス種を巻き付けていくことで、大きな作品を作ることが可能になります。

吹き棹に巻いたガラスの形を整えるための鉄のお椀のような道具は「リン」と呼ばれるものです。

ガラス種を巻き付けては吹き竿から息を吹き込んで形を整え、また巻き付けて・・・。扱っている素材が高温で不安定なため、まさに一瞬の油断も許されない緊迫感が工房全体に漂っています。

濡らした紙リンで形を整え、宙吹きで魂を吹き込みます。

ガラスに魂を吹き込む瞬間
シャッターチャンスは一瞬です。

新聞紙を折りたたんで作った「紙リン」で下玉の形を整えつつ、吹き棹を吹いて下玉を大きく膨らませるのが本吹きです。この段階ではガラスがまだまだ軟らかいので、吹き棹を常に回しながらの作業が続きます。

宙吹きの見せ場、本吹きの様子をカメラに納めようとシャッターチャンスをうかがっていたんですが、2度、3度失敗し、なんとかとらえられたのがこの写真です。
職人さんたちの流れるような動きには無駄がなく、ガラス製作は本当に時間との闘いだということを実感した瞬間です。

向こう側がポンテ棹。緊張の瞬間の連続です。

【動画】-ポンテの取り付け-
息がぴったりと合ったお二人の早業です。

吹き棹と反対側に「ポンテ」といわれいるるガラスのかたまりをポンテ棹で取り付けるシーンです。ポンテとは、イタリア語で「橋」を意味します。ガラスを橋渡しするという感覚です。

吹き棹の根元を何度も削る作業は、線入れといって、製品を吹き棹から切り離すための準備です。エアーを当てるのは、その部分を冷やして固めるためです。

ここでも職人さんの動きには一切の無駄がなく、二人の息はピッタリと合っていました。

気泡の入り具合の違いが作品の味となります。

お皿の形ができるまでたったの15分!
一晩かけて徐々に冷ましてようやく完成です。

再び釜から出てきた時には、あっという間にお皿の形になっていました。中には気泡が見事な模様となって閉じ込められ、同じものが二つとない手作りの味を醸し出しているのです。

この後、冷却機の中で一晩ゆっくりと冷やせばようやく出来上がりです。このお皿にはどんな素敵なお料理が乗ることになるのでしょうか。

平切子

見事な平面加工。これで飲めば何でもおいしい!

「平切子」とは…
ガラスの表面をきれいに平面加工する技術です。

ここでは、日本の伝統的工芸品に指定されている江戸硝子の中でも「平切子(ひらきりこ)」と呼ばれる製法についてご紹介させていただきます。

宙吹きや押し型などの手法で作られたガラス製品は、主に江東区や墨田区にある加工所に送られて、そこで様々な加工が施されます。

吹きガラスは、吹き竿とガラス種の結節点に盛り上がった部分(ポンテという)ができてしまいます。そのポンテを研磨機を使って平らにする際に生きてくるのが、平切子の平面加工技術なのです。

業界では平切子の職人のことを「平屋(ひらや)」といい、皆さんがよくご存じの江戸切子の職人のことを「切子屋(きりこや)」というそうです。

国内でも恐らくここにしかない貴重な研磨機。

所狭しと並べられた研磨機たち
ここには驚きの仕掛けがあったのです。

江東区清澄白河にあるノスタルジックな加工所には、昔ながらの機械が所狭しと並んでいました。

ガラスを磨くこの研磨機は、今では日本全国探してもここにしかない非常に貴重な機械です。そして、その驚くべき仕掛けがこちら(次ページ)です。

段階を経て輝きを増して行くガラス。

磨きは4段階
最終工程で使うのはなんと…

ガラス製品は、昔ながらの研磨機で段階的に磨かれていきます。1段階目は粗目の金属製の研磨機。2段階目はもう少し細かめの金属製の研磨機。3段階目は細かめの砥石。そして、最終の4段階目はなんと…。

左の大きな円盤状のものが桐でできた研磨機です。

研磨機の正体は桐の木!
木でガラスを削る?

最終工程で使われるのはなんと桐(きり)の木。あたりが柔らかく、かつ適度な硬さを持つ桐の木がガラスの研磨には最適なのです。セリウムの粉末を研磨剤として使い、高速で回転する研磨機にガラス製品を当てて、ガラスの表面を少しずつ溶かしながらピカピカに磨いていきます。

そうして出来上がったのが前述のロックグラスです。

左が着せガラス。右が研磨機で細工を施したものです。

”着せガラス”の表面を削って
様々な模様を描きます。

平切子の技術には右の写真のような、「着せガラス」を研磨機で削って様々な模様をデザインした製品もあります。

透明なガラスにセロファンテープくらいの薄さで赤や藍の色ガラスを被せ、その表面を削って模様を作り出すのは江戸切子も同じですが、平切子は線ではなく面で削るため、どちらかというと柔らかい見た目に仕上がるのが特徴です。

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